東京地方裁判所 昭和30年(モ)576号 判決
当裁判所昭和二十九年(ワ)第八四七八号事件の原告(本申立人)の被告猪股功に対する請求の主旨は「被告は別紙第一表の製造方法によつて原告のする固型清罐剤の製造販売を妨害してはならない」というにあり、請求の原因は「原告は別紙第一表の方法による固型清罐剤の製造を業とする商事会社であり、被告猪股外二名は別紙第二表の方法による特許第二〇二五六〇号固型清罐剤の製造方法の特許権の共有権者である原告は昭和二十八年六月以降その製造に係る固型清罐剤を日本国有鉄道に納品してきたのであるが、被告ら三名は原告の営業を妨害する目的で、昭和二十九年一月右公社に対し、原告の製品は被告らの有する前記特許権にていしよくするものである旨通告した為めに、右公社は、原告製品の清罐剤の受入をちうちよするに至つた。しかし、原告の製品は被告らの特許権にていしよくするものでないので、原告は同年二月十八日右公社に対し、原告の製品が被告らの特許権にていしよくするようなことはなく、原告の右製品納入によつて国鉄に迷惑をかけるようなことはしない旨の念書を入れて、納入を終つたが、被告らはその後も同じ方法により原告の営業を妨害しようとしているから本訴に及んだ。」というにある。ところが、被告猪股の前示特許第二〇二五六〇号特許権の共有持分権は昭和二十九年九月一日東京地方裁判所の民訴六二五条三項に基く譲渡命令により被申立人宮武に移転し、その旨特許原簿に登録された。即ち、右宮武は右訴訟の目的たる義務(民訴七四条にいう義務)を承継したのであるから、右宮武をして被告猪股に対する訴訟を引受けしめることを申立てる。但し被告猪股の前記特許権持分権譲渡につき他の共有権者二名が同意したというようなことは、原告は主張しない。
以上が本件引受申立の要旨である。
当裁判所は本申立は失当であると考へる。申立人は被告猪股の特許権持分権は東京地方裁判所の民訴六二五条三項に基く譲渡命令により被申立人宮武に移転したというのであるがそもそも特許権の共有持分権は他の共有権者の同意なき限り譲渡することができないのであるから(特許法四四条二項)少くも他の共有権者の同意なき限り、特許権の共有持分権に対しては差押も換価処分もこれを行うことができないものといわなければならない。然るに前示被告猪股の特許権持分権に対する強制執行に関し、他の共有権者二名が持分権譲渡につき同意したというようなことは、原告は主張せず、原告はただ、裁判所の譲渡命令があつた以上、これによつて被告猪股の特許権持分権は被申立人宮武に移転したというのであるから、被申立人宮武が被告猪股の特許権持分権を取得したとすることはできない。即ち、譲渡命令があつたに拘らず、被申立人の権利移転の効果は生じないとするほかないから、被申立人が被告猪股の債務を承継したとすることはできない。